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「アンパンマン!」この元気いっぱいの掛け声を聞いたことがない人は、おそらくいないでしょう。日本中に笑顔を届ける国民的ヒーロー、アンパンマン。
その生みの親であるやなせたかしさんは、私たちに勇気と優しさを教えてくれる数々の作品を世に送り出してきました。
でもやなせさんの作品は、決してアンパンマンだけではありません。アンパンマンの陰に隠れて、ひっそりと、しかし確かに輝いている、珠玉の絵本たちがたくさんあるんです。
2025年春には、やなせさんと妻・小松暢(のぶ)さんをモデルにしたNHK連続テレビ小説「あんぱん」も放送開始。
これを機に、「アンパンマンの作者」という一面だけでなく、絵本作家・やなせたかしの奥深い世界を探ってみました。

勇気と愛!やなせたかし「アンパンマン以外」の絵本や詩集
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やなせたかしの原点:アンパンマン以前に生まれた名作たち
★重要度:★★★★★
やなせたかしさんの絵本作家としてのキャリアは、アンパンマンが誕生するよりもずっと前に始まっています。
彼の作品には、一貫して「何のために生きるのか」「本当の正義とは何か」といった、深く考えさせられるテーマが込められているのが特徴です。
アンパンマンがあらゆる人に自分の顔を分け与える自己犠牲の精神は、初期の作品からすでにその萌芽が見られます。
たとえば、1975年に刊行された『やさしいライオン』は、まさにやなせさんの優しさと深いメッセージが凝縮された一冊と言えるでしょう。
『やさしいライオン』:言葉を超えた愛情と哀愁
『やさしいライオン』は、小さいけれど心の優しいライオンのブルンと、おばあちゃんの愛情を描いた絵本です。
ブルンはおばあちゃんが大好きで、いつも一緒に過ごします。しかし、ある日おばあちゃんは年老いて亡くなってしまいます。悲しみに暮れるブルンは、おばあちゃんの墓のそばでずっと寄り添うのです。
この物語は、言葉では言い尽くせない深い愛情や、失われたものへの哀愁を、静かに、しかし強く伝えてきます。子供向けの絵本でありながら、大人の心にも深く突き刺さる普遍的なテーマが描かれているのです。

アンパンマンのような派手さはないけれど、読み終わった後にじんわりと温かいものが心に残る。そんな、やなせさんの優しさが詰まった作品だと感じます。
『チリンのすず』:恐怖を乗り越える勇気と成長の物語
『チリンのすず』もまた、やなせたかしさんの代表作の一つです。臆病な子羊のチリンが、狼のウォンに親を殺され、復讐のためにウォンの弟子となり、強く成長していく物語です。
チリンは厳しい修行に耐え、最後にはウォンをも倒すほどの力を手に入れます。しかし、その過程でチリンは、強さとは何か、生きるとはどういうことかを深く考えるようになります。
この絵本は、復讐劇ではなく、恐怖や悲しみを乗り越え、成長していくチリンの姿を通して、子供たちに勇気を与えるとともに、生きることの厳しさや複雑さも伝えているように感じます。

世代を超えて歌い継がれる「手のひらを太陽に」
★重要度:★★★★★
やなせたかしさんの作品は、絵本だけではありません。作詞家としても多くの素晴らしい作品を残しています。その中でも、特に有名なのが童謡「手のひらを太陽に」です。
「生きているから歌うんだ」:シンプルな言葉に込められた深いメッセージ
「手のひらを太陽に」は、1961年にやなせたかしさんが作詞、いずみたくさんが作曲した童謡です。
ぼくらはみんな生きている 生きているから歌うんだ ぼくらはみんな生きている 生きているからかなしいんだ
ぼくらはみんな生きている 生きているから笑うんだ ぼくらはみんな生きている 生きているからおもしろいんだ
ぼくらはみんな生きている 生きているからよろこぶんだ ぼくらはみんな生きている 生きているから生きていくんだUtaTen 歌詞検索サイトより引用
この歌詞は、「生きている」という当たり前のことの中に、喜びや悲しみ、楽しみといった様々な感情が詰まっていることを、シンプルで力強い言葉で表現しています。
子供から大人まで、誰もが共感できる普遍的なメッセージが、世代を超えて歌い継がれる理由なのでしょう。
NHKの「みんなのうた」でも放送され、多くの人に親しまれてきたこの歌は、やなせたかしさんの詩人としての才能を強く感じさせる作品です。

2025年2月には、この歌をモチーフにした絵本『てのひらを たいように新装版』もフレーベル館から出版されており、新たな世代にもこの歌のメッセージが届けられています。
絵本に込めた想い:わかりやすさ、擬人化、問いかけ
★重要度:★★★★
やなせたかしさんは、絵本や詩を作る上で、常に「わかりやすさ」を大切にしていたと言います。難しい言葉を避け、普段使っている日常的な言葉を選ぶことが、良い詩への第一歩だと語っています。
そのために、彼は様々な工夫を凝らしました。
キャラクター化(擬人化):親しみやすさ
やなせ作品の大きな特徴の一つが、擬人化されたキャラクターの存在です。アンパンマンはもちろんのこと、『やさしいライオン』のブルンや、『チリンのすず』のチリン、ウォンなど、動物たちが人間のように感情豊かに描かれています。
やなせさんは、土地や物までもキャラクターとして描くことがあります。
野良時計の下で アキちゃんと 逢いました アキちゃんと いっしょに 焼き茄子アイス 食べれば キスした唇「こげくさい」アキ
「いいなぁアキ(安芸)」より引用
このように、身近なものを擬人化することで、子供たちは物語の世界に入り込みやすくなり、親しみを感じるのでしょう。
問いかけ:読者の心に深く響かせる手法
やなせさんの作品には、読者に直接語りかけるような「問いかけ」が登場します。
なんのために飛ぶ めざす遠い空 ふしぎな いのちの 星が燃える 暗い夜よ バイバイ 消えてゆくよ バイバイ
「なんのために飛ぶ」より引用
私は誰? 知らない 私は誰? 知らない 知らない 私は誰? 私は誰? 私は誰? 知らない 知らない 知らない
「ドキン・ドキン・ドキンちゃん」より引用
これらの問いかけは、子供たちの心に疑問を投げかけ、「なぜ?」と考えるきっかけを与える。物語を通して、その問いに対する自分なりの答えを見つけていく。
そんな、読者自身のコミットメントを促す力強い手法と言えるのではないでしょうか。

やなせたかしの絵本、アンパンマン以外のおすすめの作品
重要度:★★★★
アンパンマン以外にも、やなせたかしさんが手がけた魅力的な絵本はたくさんあります。いくつかおすすめの作品をご紹介しましょう。
十ニの真珠
『十二の真珠』は、“アンパンマン"の原点ともいえる作品が収録されており、「一話を400字詰め原稿用紙3枚で書き上げる」という、やなせ氏のその後の作品の基本形を形作った短編童話集。
クシャラひめ
鼻が低いことがコンプレックスのクシャラ姫。いつも自分で作ったとんがり鼻をつけていました。ある日森で恐ろしい竜に出合い…。
これらの作品は、アンパンマンとはまた違った魅力で、子供たちの心を豊かに育んでくれるはずです。
詩人としてのやなせたかし:言葉に宿るメッセージ
★重要度:★★★
やなせたかしさんは、絵本作家としてだけでなく、詩人としても多くの作品を残しています。彼の詩には、人生の喜びや悲しみ、そして希望が、シンプルながらも力強い言葉で綴られています。
詩集『やなせたかし詩集: てのひらを太陽に』などでは、彼の様々な詩の世界に触れることができます。絵本とはまた異なる、言葉の力強さや美しさを感じることができるでしょう。
創作活動の裏側:多岐にわたる才能
★重要度:★★★
やなせたかしさんの才能は、絵本や詩にとどまりません。漫画家、アニメーター、作詞家、作曲家、キャラクターデザイナーなど、その活動は多岐にわたります。
多くのキャラクターを生み出したデザイナー
アンパンマン以外にも、やなせさんは多くのキャラクターをデザインしています。高知県の鉄道のキャラクターや、企業のイメージキャラクターなど、その数は枚挙にいとまがありません。

心に残る歌の数々
作詞家としては、「手のひらを太陽に」の他にも、アニメ「のらくろ」の主題歌やエンディングテーマ、「美しの丘」など、多くの歌の歌詞を手がけています。
また、「ミッシェル・カマ」というペンネームで作曲も行っていました。これらの歌は、子供たちの心に長く歌い継がれています。
やなせたかしの絵本に関するQ&A
まとめ:やなせたかしのアンパンマン以外の絵本
やなせたかしさんが私たちに残してくれたのは、アンパンマンというヒーローだけではありませんでした。
彼の描く絵本や詩には、生きる喜び、悲しみ、勇気、優しさといった、人間にとって普遍的なテーマが深く刻まれています。
子供たちは、彼の絵本を通して、大切な心の糧を育むことができるでしょう。大人たちは、シンプルながらも深いメッセージの中に、改めて人生の意味を見出すかもしれません。
2025年、連続テレビ小説「あんぱん」の放送を機に、ぜひ、アンパンマン以外のやなせたかしさんの作品にも触れてみてください。
やなせさんの作品は、時代を超えて、これからも多くの人々の心に寄り添い、勇気を与え続けてくれるでしょう。