
※登場人物は全て仮名です。
「えっ?私、3,990円の金賞受賞チョコを、何も知らずにポリポリ食べていたの?」
この事実に気づいた夜、私はしばらく天井を見つめました。
人生の過ちにはいろいろありますが、「格上のものを格下だと思って消費する」という過ちは、じわじわと後から効いてきます。
数年前のホワイトデーが終わった頃のこと。
久しぶりに帰った実家のテーブルに、こぢんまりとした箱が置いてありました。深緑と金の、落ち着いた和柄のパッケージ。母のメモには「お父さんから貰ったけど、あんたも食べていいよ」とだけ書いてある。
私は小腹が空いてたので秒で口の中に放り込みました。「あ、抹茶チョコか」と。
そして脳内のある棚に自動分類しました。名付けるなら「ありがたいが若者向けではないゾーンの棚」。有名温泉地の羊羹とか、空港の売店の昆布とか、そういう棚です。
私はその箱を、ドラマを観ながら数粒。「うん、お茶の味。悪くはないな」。それだけの感想で完食しました。
少し脱線しますが、当時の私の舌について
あの頃の私は全体的に「上質なものへの感度」が壊滅的でした。初めて本格的なフレンチを食べた時に「でもガストのドリアのほうが好きかも~」と思っていたし、松阪牛をご馳走になった時も「焼肉のタレって偉大だな」しか感想が出てこなかった。
要するに私にはまだ、大人のものを大人として味わう準備が一ミリも整っていなかったバカ舌でした・・・。あ、話を戻します。
そして事件は数年後、何気なくインスタを眺めていた夜に起きました。和柄の箱の蓋が開いた瞬間を撮影した写真が流れてきた。
着物の帯を思わせるデザインに、艶やかなショコラが整然と並んでいる。キャプションには「伊藤久右衛門のショコラコレクションオシャレ!」和モダンお返しの最高峰。金賞受賞チョコ入ってて感動した!と書いてある。
……あれ。このパッケージ、見たことある。
脳内を4秒で検索した結果、答えが出ました。「あ。ドラマ観ながら食べたやつだ」
慌ててXやTikTokでも検索しました。出てくる出てくる。「京都・宇治の老舗中の老舗」「宇治茶のプロが本気で作ったガナッシュ」「濃茶・ほうじ茶・玄米茶、一粒ごとに別世界」「甘すぎないから赤ワインにも合う」。
私はゆっくりスマホを置きました。天井を見つめました。大人のホワイトデー最高峰を、私は寝ながらチロルチョコと変わらない感覚で食くしていた。
ちなみにですが、ホワイトデーのお返しなんか貰ったことないです。
と、言う訳で潔くホワイトデーにもらえる可能性を手放し、自分用に購入を決意。桐箱入りの「濃茶のしらべ」かショコラコレクション9種入りか、バニラビーンズとのコラボのショーコラか。全部買えばいいのではという結論に向かっていたその瞬間のことです。
ページをスクロールしていった先に、それはいました。
「ちょっとまって。こんな可愛いのもあるの???」
抹茶パフェアイスバー、5本入。TVやSNSで話題、という文字。見た目が、もう、やばい。抹茶アイスをベースに、木苺・いちご・桃・マンゴーなど、フレーバーごとに表情の違うコーティングをまとったアイスバーが5本並んでいる。
これ、アイスです。なのに、なぜ宝石みたいなんですか。
口コミには「父に送ったら甘すぎなくて美味しいと言っていた。いつか自分用に購入したいと思いました」とある。「自分用に購入したいと思いました」……いや、買ってあげて。今すぐ。
ショコラにするかアイスバーにするか。いや、なぜ二択で考えているのか。桐箱のショコラとアイスバーは、別腹どころか別カテゴリです。
冷凍ものもあとでゆっくり楽しめるなら全然あり。「和皿に載せた抹茶パフェアイスバーをサイドから光を当てて撮影する」という新しいビジョンが脳内に広がってきました。
気づいたらカートに2つ入っていた。これはもう贖罪ではなく、昇天です。
届いたらショコラは和皿に一粒だけ移して、暗めの照明でサイドから光を当てて撮ります。アイスバーは溶ける前に全力でポートレートモードで撮ります。
まわりの人が何故食べ物の写真をSNSにアップするのか?その心理が分かった気がします。これは楽しい~
「あの日の私に教えたい。それは地味なチョコでもおじいちゃんのお土産でもなくて、京都の伝統と職人技が詰まった2026年ホワイトデーの最高峰だったんだよ。あと、アイスバーまであるよ」
これを読んでいるあなたへ。もし誰かが伊藤久右衛門を選んでくれたなら、どうかドラマを消して、ちゃんと向き合って食べてください。選んでくれた人の気持ちをしみじみ味わいながら・・・
テレビをつけながら食べるには、もったいなさすぎます。経験者は語ります。
見栄えが良くて美味しいスイーツに感謝。