
※登場人物は全て仮名です。
私がトフィーと出会ったのは、特に何かに迷っていたわけでも、ドラマチックな朝でもなかった。
強いて言えば、冷蔵庫に大事にしまっていた「とっておきの高級プリン」を食べるか?明日に取っておくか迷って、結局食べた直後の、深夜11時頃だった。
レビュー特典付きのオシャレ家電を探していたのは、単純な話で「どうせ買うならおまけ付きの方がいい」という、ごく真っ当な消費者の本能からである。
ポイントとかクーポンとかに目がない。スーパーで「3個買うと1個無料」のシールを見ると無条件で手が伸びる。
関係ないけど先月それでシャンプーの予備が5本になった。どう考えても買いすぎだ。
話を戻そう。
「レビュー特典付き 家電 オシャレ 一人暮らし」で検索したら、なんか良さそうなキャッチコピーが出てきて、ページを開いた。どうせ黒か白のスタイリッシュ系でしょ、と思いながらスクロールしたその瞬間。
止まった。
手が、止まった。
丸い。レトロ。やわらかいパステル調のモスグリーン色。
トフィーのコーヒーメーカーだった。
「……え、なにこれ。」
声に出てた。
私はそれまで「家電がかわいい」という概念が、頭の中の辞書に載っていなかった人間だ。家電は機能で選ぶもので、置いたら生活感が出るものだった。
だから「なんかまとまらないキッチン問題」がずっと解決しないまま今日に至っていた。
はじめにピンクのケトルを買った。かわいかった。でもうちのキッチンには似合わなかった。 こだわりのカフェカーテンを付けた。
素敵だった。
でもなんかちぐはぐだった。 マグカップのデザインを統一した。少しだけオシャレになった気がした。でもコーヒーメーカーだけ黒くてゴツかった。
無骨なフォルムのコーヒーメーカー男性が好きそうなデザイン
そう、ずっと犯人はあいつだったのだ。可愛いものを買っても無駄無駄無駄!の空耳が聞こえてくる。キッチンのまとまらない感じの元凶。
ゴツい黒の全自動コーヒーメーカー、お前だったのか・・・
トフィーのページをひとしきり眺めたあと、インスタで「#トフィー」を検索した。
出てくる出てくる。
白い壁。木目の棚。小さなグリーン。くすみピンクのカップ。そして中央に鎮座するトフィーのコーヒーメーカー。アースカラーとも言うらしい。
「……これ今まで、私が目指してたキッチンの雰囲気。」
しかも見てるうちに気づいた。コーヒーメーカーだけじゃない。トースターもトフィー。ラックの色が合わせてある。置いてあるバスケットまで色調が揃ってる。
「あ、これって……コーデなんだ。キッチンのコーデ。」
服でいえば、トータルコーデの概念をようやく理解した瞬間に近かった。ボトムスに合わせてトップスを選ぶように、コーヒーメーカーに合わせてキッチン全体を組み上げてる。
みんなそれをナチュラルにやってたのか。私だけが、ずっとバラバラのまま「なんか違う」って思い続けてたのか。
ちょっと待って。それ、気づくの遅すぎない?
それから・・・注文したコーヒーメーカーが届いたのは、よく晴れた土曜の午前中だった。箱を開けた瞬間から、もうかわいかった。梱包がかわいいって、どういうことだ。
キッチンに置いた。
「…………あ。」
声が出なかった。今度は逆の意味で。
ずっとバラバラだったキッチンが、たった一台センスの良い家電を置いただけで、急に「ひとつの絵」みたいになった。
ケトルの淡いピンクと馴染んでる。カフェカーテンの雰囲気と合ってる。木目のトレーを横に添えたら、なんかもう「生活感」じゃなくて「演出」になってた。
これが統一感か。
これが、みんながインスタで見せてたやつか。
感動のあまり、10分くらいキッチンの前に立ったまま眺めていた。コーヒーも淹れずに。完全に鑑賞モード。家電を鑑賞する日が来るとは思わなかった。
ここで話は少し大きくなる。
キッチンが整ったら、なぜかリビングが気になりだした。
「あのクッション、キッチンの色と合ってないな。」
なぜ今まで気にならなかったのか。いや、気になってたけど見て見ぬ振りをしていたのか。トフィーのせいで目が肥えてしまった。困る。こうなったら全部アースカラーにしてやる!
くすみピンクのクッションカバーを買った。部屋の雰囲気が上がった。調子に乗って木目のサイドテーブルを買った。さらに上がった。「あ、これがインテリアの沼か」と思った時にはもう遅かった。
関係ないけどこの一ヶ月で部屋のトーンがほぼ統一された。シャンプー5本無駄買いした問題と違って、こっちは後悔する事がない。
いちばん変わったのは、朝キッチンに立つ瞬間だった。
以前は「まあ、コーヒー飲んで仕事行くか」という、ただの作業だった。でも今は、キッチンに入るたびに一瞬「あ、かわいい」と思う。
たったそれだけのことなのに、1日のスタートがちょっと違う。
コーヒーの味は、まあ、普通だ。レビューに書いてあった通りだった。でもそこじゃないんだよなあ、と今も思っている。私が買ったのはコーヒーの味じゃなくて、かわいいキッチンに立つ朝の気分が爆上がりした今の状態だったから。
機能より気分。それが可愛さ最優先女子の、ゆずれない一点だ。
そしてこれだけは声を大にして言いたい。
豪華特典付きのキャンペーンで買えたこと、本当によかった。
どうせ買うなら、デザインがかわいい方がいい。どうせ買うなら、部屋の雰囲気が変わる方がいい。そしてどうせ買うなら、特典が付いているタイミングで買った方がいい。
全部の「どうせ」が揃ったのが、あの深夜11時だったわけだ。
とっておきのプリンを食べたあとの高揚感が、奇跡を連れてきた。