私とリカバリーウェア「パジャマだけじゃなかった」
と気づくまでの、ちょっと長い話

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私とリカバリーウェア「パジャマだけじゃなかった」と気づくまでの、ちょっと長い話

※登場人物は全て仮名です。

足がパンパンな女の、平凡な月曜日

10月の月曜日の午後3時というのは、1週間の中でもっとも気持ちが死んでいる時間帯だと思う。

午前中のやる気はとっくに蒸発し、退勤まではまだ3時間ある。おまけに今日は朝から会議が3本続いて、気づけばお昼ごはんを食べたのかどうかも記憶が曖昧だ。

田中さゆり、32歳、都内のIT企業でマーケターをしている。趣味はカフェ巡りと、週末だけ走ると決めて買ったランニングシューズを眺めること。特技は「今夜こそ早く寝る」と言って結局1時を回ること。

そんな彼女が今、ヒールをこっそり脱いでデスクの下で足首をぐりぐりと回している。

「あ〜今日もパンパン・・・」

誰に言うわけでもなく呟く。右足、左足、また右足。これが毎日の午後3時の儀式だった。腕もじわじわ重い。キーボードを打ちすぎて、肘から先がなんとなくむくんでいる気がする。でも「デスクワークってそういうもんだよね」と、さゆりはここ2年間ずっとそう思い込んでいた。

仕方ない。これが社会人というものだ。アラサーというものだ。

ちなみにさゆりは学生時代、「将来は颯爽と働くキャリアウーマンになる」と思っていた。颯爽と。足パンパンで廊下をぐるぐる歩き回るキャリアウーマンを、あのころは想像していなかった。

通勤電車で見かけた、謎のお姉さん

話は3日前の朝にさかのぼる。

満員電車の中で、さゆりはとなりに立っていた女性のことが少し気になっていた。きれいめのオフィスカジュアルに、すらりと伸びた腕。その腕に、うっすらグレーのアームカバーがさらりとはめられていた。

「あ〜、日焼け止め対策ね」

さゆりの感想はそれだけだった。意識高い系だな、とも思った。朝からしっかりUVケアして、ちゃんとしてるな〜と。別に悪い意味じゃなく、ただそれだけの話。

その後さゆりは職場の最寄り駅で降りて、スタバのラテを片手に出社して、午後3時に足をぐりぐり回して、それでその日は終わった。

アームカバーの女性のことは、完全に忘れていた。

夜中のスマホ、運命の出会い

金曜の夜11時。

さゆりはベッドに横になりながら、スマホをぽちぽちしていた。特に目的もなく、SNSを眺めて、気になった投稿に「いいね」して、通販サイトで買うつもりもないニットを3枚カートに入れて。

半年前に買ったリカバリーウェアのパジャマが気に入っていたから、何となくそのブランドのサイトを開いた。「新作でも出たかな〜」と軽い気持ちでスクロールしていると

レギンス。アームカバー。

「・・・え?」

思わず声が出た。夜中に一人で。

ページをよく読むと「長時間のデスクワークに」「夕方のむくみが気になる方に」「腕の疲れをしっかりサポート」という文字が並んでいる。

「パジャマだけじゃ、なかったんだ……」

ここで正直に告白しておかなければならないのだが、さゆりはリカバリーウェアをずっと「寝るとき専用の高級パジャマ」だと思い込んでいた。完全に。疑いもせずに。日中にも使えるなんて、考えたこともなかった。

YouTubeの沼に落ちた夜

気になり始めると止まらないのがさゆりの悪い癖で、そのままYouTubeで「リカバリーウェア 効果」と検索した。

出てくる出てくる。解説動画が次々と。

動画を見ながらさゆりは初めて知った。リカバリーウェアには、生地に鉱石やセラミックが練り込まれた特殊繊維が使われていること。

その繊維が体温を吸収して遠赤外線を放射し、血行を促してくれること。血流がよくなると、疲労の原因となる老廃物が体外に排出されやすくなること。

「え、超ちゃんとした仕組みがあるじゃん・・・」

しかも製品によっては、国の機関であるPMDA(医薬品医療機器総合機構)に「一般医療機器」として届け出がされているものもあるという。つまり品質や有効性の審査を通過した、れっきとした医療機器カテゴリのウェアなのだ。

「着るだけでいい」という言葉の裏に、ちゃんと科学があった。

さゆりはしばらく画面を見つめて、静かに思った。

私がここ2年間やってきた「民間療法」って、いったい何だったんだろう、と。

塩分を3日だけ控えて挫折。着圧ソックスを買っては蒸れて嫌になる。マッサージローラーを試しては痛すぎて逆にストレス。足を高くして寝ようとして枕がずり落ちる。

科学のある方法を横目に、ひたすら泥臭くやっていた。

電車のお姉さんの正体

YouTubeの動画がひと段落したとき、ふと頭に浮かんだ顔がある。

3日前の朝、通勤電車で見かけたあのお姉さんだ。

グレーのアームカバー。涼しい顔でスマホを見ながら、さらりとはめていたあれ。

「日焼け止め対策」だと思っていた。

でも・・・

「もしかして、あれって……リカバリーウェアだったんじゃ」

さゆりの中で、ピースがかちりとはまった。

おしゃれのためでも、紫外線対策でもなく。デスクワークで酷使する腕の血流を、通勤中からちゃんとケアしていたのだ。あのお姉さんは。朝の時点でもう、体への投資が始まっていた。

颯爽としていた理由が、今になってわかった気がした。

「意識高い系だな」と心の中で思っていたのは、こちらの無知でした。本当にすみませんでした。誰に謝ってるんだという話だが、誰かに謝りたい気持ちになった。

さゆり、カートに入れる

ベッドの中で、さゆりはぼんやりと天井を見上げた。

毎日の午後3時、こっそりトイレに立ってぐるぐる歩き回っていたあの時間。キーボードを打つたびに腕が重くて、「デスクワークってそういうもんだよな〜」と2年間も思い込んでいたあの感覚。

「仕方ない」「体質だから」「アラサーってこういうもんでしょ」

でも遠赤外線が血行を整えて、老廃物を流してくれるなら。それが科学的な根拠のある話なら。

着るだけでよかったのかもしれない。

さゆりはそっとカートに入れた。さっき入れていたニット3枚のうち1枚を外して、アームカバーとレギンスをそこに追加した。別にニットが悪いわけじゃない。ただ今夜は、こっちの方が大事な気がした。

注文ボタンを押して、スマホを置く。

窓の外、東京の夜景がぼんやり光っている。

来週の月曜日の午後3時、さゆりは初めて、トイレにぐるぐると歩きに行かないかもしれない。

颯爽とはいかないかもしれないけれど、少しだけ、近づける気がした。

そしてまた月曜日

1週間後。

さゆりはレギンスをはいて出社した。

午後3時、足の感覚がいつもと少し違う。パンパンの度合いが、心なしか軽い。アームカバーをしていたら隣の席の後輩に「それ何ですか?」と聞かれたので「リカバリーウェア」と答えたら「パジャマですか?」と返ってきた。

「違う違う、パジャマだけじゃないんだよ」

さゆりは少し得意げに、ちゃんと説明した。生地に特殊な繊維が入っていて、体温から遠赤外線を出して、血行を促してくれるんだよ、と。

後輩は「へえ〜、なんか科学的ですね」と言った。

そうなのだ。科学的なのだ。

3週間前の自分に言ってやりたい、とも思った。

 

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